はじめに:違和感に気づいたら、知っておきたい備えの選択肢
「最近ちょっと物忘れが多いな」と感じたとき、何か備えをしておいた方がいいのか、まだ様子を見ていいのか――判断に迷う方も多いと思います。
いざというときに備える手段としてよく挙げられるのが「後見制度」や「家族信託」。
でも実はこの2つ、そもそもの性格がまったく違う制度です。
早わかり比較表:後見制度と家族信託、何がどう違う?
まずは、主要な3つの制度をざっくり比較してみましょう。
制度 | 主な目的 | 始まる タイミング | 任せられること | 柔軟性 | |
---|---|---|---|---|---|
法定後見 | 被後見人の財産管理と身上監護 | 判断能力が 低下した後 | 財産の管理 (制限多め) | △ | 手続きが複雑 |
任意後見 | 委任者本人の希望を反映した財産管理と身上監護 | 契約は 元気なうちに 発効は後で | 契約次第で 比較的柔軟 | ◯ | やや煩雑 |
家族信託 | 委託者の財産の活用を人に託す | 契約は 元気なうちに 即効力生じる | 財産の管理 のみでなく 運用・処分も | ◎ | 比較的自由に設計できる |
👆このように、それぞれの制度は「何を」「いつから」「どこまで」任せられるかに違いがあります。
制度の特徴を、利用者目線で比べてみると
ユーザー目線で見たざっくりとした印象を以下にまとめてみました。
法定後見制度
- あくまで「守る」ことに重きが置かれているぶん、自由に財産を動かすことは難しくなります。
- 裁判所が選任するということで、安心な反面、融通が利きにくい印象です。
- 残念ながら、後見人となった専門家による不正の報告も……。(参考ページ:裁判所後見人等による不正事例)
- いずれにしても、後見人を選任するのは裁判所であり、これに不服申立てはできません。この点は、一般の利用者にとって大きな制約になると感じます。
任意後見
- 「元気なうちに契約しておく」という点で、前向きな選択肢と言えます。
- 財産の管理を中心に、契約である程度自由に定められます。
- 任意後見監督人の書面による同意のもと、財産の処分(例えば不動産売却等)も可能と定めておくこともできます。
- 実際に制度が発効するまでには手間がかかる印象です。(参考ページ:裁判所|任意後見監督人選任申立書)
- 「万が一があったとき、最悪の事態を避けるための保険」としては、意義深いと感じます。
家族信託
- 受託者が、財産の管理だけでなく、処分や運用もできるようにあらかじめ設計できます。
- この「運用」まで任せられる、というのは後見制度にはない大きなメリットと感じます。
- 賃貸不動産をお持ちで、管理をこの世代に任せたい場合などには特にオススメできます。
「うちはまだ早い」と思っている家庭ほど、備えが効く
「うちの親はまだ元気だから大丈夫」と思っているうちに、準備をしようとする人は少ないです。しかし、ひとたび判断能力が低下してしまうと、残念ながら契約はできず、選択肢の幅は狭くなってしまいます。
家族信託は、本人の意思がはっきりしているうちでなければ契約できません。もちろん、任意後見も同様です。
「まだ大丈夫」な今だからこそ備えることができます。
もし、「ちょっと不安」と感じ始めているなら、それは準備できるラストチャンスかもしれないのです。
認知症の「はじまりサイン」に気づくには?
医師の診断が出るより前に、家族が「ちょっと変だな」と気づく瞬間はよくあります。
たとえば:
- 同じ話を短時間で繰り返す
- 通帳の管理があやふやになる
- 冷蔵庫に同じ食材が何度も買い込まれている
- 運転や料理のミスが増えた
- 通院を嫌がる
- 人を疑うようになる
こうした変化は本人には自覚しづらく、家族の観察と早めの気づきが大切になります。
家族でやっておきたい備えと対話
実家にひとり暮らしの80代の母を、遠方から支えていたAさん。
最初は「買い物のミスが増えたな」という程度でした。
しかし、ある日、自宅で転倒して骨折してしまい、入院することになりました。
体を動かさなくなったためか、その後、急速に症状が進行していることに気づきました。。
銀行のキャッシュカードは、暗証番号を複数回間違えて使えなくなっていました。
手続きには本人の意思確認が必要と言われ……。
「もうちょっと早く話し合っておけば…」と後悔したそうです。
一方、Bさんは、母の他界後自宅にひとりで暮らす70代の父親を心配し、話し合いを進めました。
自宅不動産と金融財産の一部をBさんに託す、信託契約を事前に交わしていました。
その後施設に入居したため、自宅は処分し、託された財産を父の生活のために捻出するつもりです。
まとめ
認知症のはじまりは、誰にとっても不安なものです。でも、その小さな違和感に気づけたときこそが、「備えを始めるサイン」です。
- 相続準備や財産管理を委任する契約は、元気なうちだからこそできることです。
- 任意後見契約は将来の認知症リスクに備えるという意味で、良い保険と言えそうです。
- 家族信託などより柔軟な仕組みを活用することで、本人も家族も安心できます。
- 「まだ大丈夫」が「もう遅い」にならないよう、早めの対話と準備が大切です。
📌 次に読みたい:
- 成年後見制度とは?(予定)
- 家族信託とは?(予定)
- 親とお金の話を切り出す前に整理しておきたい5つのこと
- 見守りサービスの種類と選び方(予定)