遺品整理というものが、ここまで心を疲れさせるものだとは、当時の私はまだわかっていませんでした・・・。
「家も片付けていかないといけないな。何年かかかるだろうな。」
母の三回忌を終えた頃、父に癌が見つかりました。
手術後、落ち着いた頃に父がふとそう言ったのをいまでも覚えています。
母の遺品はまだ手を付けられずにいたが、父は自分の体の変化を前にして、何か感じるものがあったのでしょう。
予定通りに進むとは限らない
数ヶ月後、父は「情けないことに、もう階段で2階に行けなくなった」と漏らした。
骨に転移し、歩くのも困難になっていたようだ。
片付けどころではなく、罹患後半年ほどで父はこの世を去った。
正直、あまりに進行が早く、本当に信じられない気持ちだった。
癌は「準備の時間がある病気」とも言われるけれど、実際にどう進行するかは人による。
もちろん、闘病しながら仕事を続けるような人もたくさんいる。しかし、残念ながら自分や家族がそのタイプにあてはまるとは限らないのだと思い知らされた。
兄弟も皆独立して実家を離れていたため、いずれ実家は売却することになるだろうという共通認識ではあった。
売るにしても残すにしても、人が住まなくなった家は想像以上に早く傷んでいく。
父ができなかった仕事、やらなくちゃ…。
なんとなく使命感みたいなものを持って片付けを始めました。
片付けは「物」だけの問題ではない
月に数回通って風を通して掃除をし、残すものと捨てるものを分ける。――単純な作業のはずが、妙に時間がかかることに気づく。「これは捨てていいのか」「誰が引き取るのか」。――小さな判断の積み重ねが、静かに精神を消耗させていく。正直、そんなペースでは焼け石に水のようで、行くたびに絶望的な気持ちになった。
まず、モノの量に圧倒される。しかも決してゴミ屋敷ではないのでかえってタチが悪い。(もしそうであれば、早めにこれはさすがに専門業者にお願いした方がいいのでは?と考えられたかもしれない。)ただただ、モノが多いのだ。そしてあらゆるモノに親の人生の痕跡が残っていて、手を付ける前から息が詰まった。
ここまで終わらせようと決めて作業を始めるが、気づけば夕方になっても終わらない。
少しずつ減ってはいるのだが、部屋の様子が劇的に変わらない。「減った」という感覚が得られない。
何度も休憩を挟み、ため息をつきながら作業を続けるうちに、「片付けは体力仕事」というより、「心の持久戦」だと感じるようになる。
家族の温度差がしんどい
兄弟で集まって片付けをすることは、ほとんどなかった。
兄は実家から離れた県に住んでいたし、姉もたまに手伝いに来る程度だった。
暗くひっそりとした実家で一人、気が重くなる作業。これだけのモノを溜め込んできた親や、協力してくれない兄弟に対する恨みつらみのような感情が生まれることもあった。もちろんそんなのは私の勝手な感情です。彼らにもそれぞれ事情があるのだから、しかたのないことなのだけれども。
相続相談を受けていても、兄弟関係のさまざまな葛藤を聞かされる。
「長女は親の介護を全くしなかった。」
「次男は家を購入する時に親に援助してもらっていた。」
といったものから、
「子供の頃から長男は親に贔屓されていた。」
「次女は私立の学校に通っていた。海外留学させてもらっていた。」
などの、それ、何十年前の話なの?!というようなものも多い。
そのような恨み言が、60代以上の「いい歳をしたオトナ」の口から出てくることは本当に。
あとに残るもの
実は、結局私は、実家の片付けを最後まで見届けられなかった。
気がつけば3年ほどダラダラと空き家状態のままだった。水道光熱費の引き落としをしていた口座残高がいよいよ残りわずがになってきた頃、ようやく売却に向けて具体的に動き始めた。(実は、売却についても本腰入れて調査してみてびっくりなことだらけだったのだが…)。契約の日までには動産を撤去しなければならない。結局片付け業者に依頼することになった。
しかし、私はタイミング悪く海外に渡航中で現場には立ち会えなかった。がらんとした部屋を目にすることも、最後の鍵を閉めることもなかった。そんな状況だったため、「終わった」という実感を持てずに虚しさだけ残ってしまった。
時間と労力を費やして本当に片付けたかったのは、心に積もったわだかまりだったのかもしれない。
おわりに
あの頃に比べると、私も少しは知恵を身につけました。
今振り返ってみると、あの重苦しい時間と感情を軽くする方法だってあったのにな、と思います。
片付けや断捨離®️は、今ではちょっとしたブームです。
それらは単に「捨てろ」と言うだけではなく、
片付けを通じて、モノや感情とどう向き合うかを教えてくれる面もあります。
自分のモノを片付けることで、感情との向き合い方を学んでおくのは、とても良いことだと思います。
いきなり「遺品」の整理というのはハードルが高いものです。
だからこそ、日常の中で小さな片付けを積み重ね、少しずつ心の準備をしておくことが、
いざというときの助けになるかもしれません。
また、自分たちの相続人の「遺品整理」の苦労を減らしてあげることにもつながるでしょう。