はじめに:「まだ元気なのにそんなこと聞けない」という壁
親が元気なうちに「お金のこと」、話しておかないと——
そう頭ではわかっていても、
「まだ元気なんだから」
「そんな話、失礼じゃないか」
と躊躇してしまう方も多いのではないでしょうか。
けれど、もしものときに「何がどこにあるかわからない」と困るのは、残された家族です。
この記事では、親とお金の話をするために知っておきたい項目や、自然に話を切り出すコツ、安心感を生む声かけの工夫を紹介します。
何を知っておくべきか?
預貯金・不動産・保険・借金・介護費用
親の財産といっても、現金だけではない。
把握しておきたい主な項目は次の通りである。
- 預貯金の口座情報(銀行名・支店・名義・通帳と印鑑の保管場所)
- 所有不動産(名義・所在地・登記簿の内容)
- 加入している保険(生命保険・医療保険・介護保険など)
- 借入金やローンの有無
- 将来的な介護に備えた資金の見積もり
また、不動産については「そんなものを持っていたの?」というケースもある。
- 原野商法で購入してしまった不動産があることを、亡くなってから知った。
- 祖父母の代からの相続で、田舎の不動産が共有名義になっていた。
それぞれの内容を網羅的に把握しておくことで、相続や介護が必要になったときの負担を大きく減らせる。
重要書類の保管場所
財産情報と合わせて確認しておきたいのが、各種重要書類の保管場所である。
たとえば、以下のようなものが該当する。
- 不動産の権利書(登記識別情報通知)
- 保険証券
- 年金関係の書類
- 遺言やエンディングノート
- 通帳・印鑑の保管場所と使い分け
これらは見つけられないことで、手続きが遅れたり不利益を被る可能性もある。
「どこにあるか」だけでも共有できていると安心だ。
切り出し方のコツとタイミング
「何かあったとき困らないように」
「財産のことを聞くなんて、失礼では?」と感じる人もいるかもしれない。
聞き方の工夫で印象はまったく変わる。
くれぐれも、「責めている」「狙っている」という印象を与えないようにしたい。
たとえば、
「急に入院とかになったとき、私たちも慌てないようにしておきたくてね…」
「お父さん(お母さん)って、家のこと全部やってくれてるけど、何かあったら誰も分からなくなりそうで不安なんだ」
というように、
家族としての思いや実際の困りごとに備える姿勢を前面に出すのが良いだろう。
“自分のため”ではなく“親のため”であることを軸にすれば、気持ちも伝わりやすい。
事実、本人が話を切り出してくれるのを待っている場合も多く、聞いてくれて助かったと思ってくれることすらある。
法事、誕生日、通院帰りなど自然なきっかけで
タイミングは「何気ない会話の延長」であることが望ましい。
以下のようなシーンは特に自然に話ができる。
- 法事の場:他人の死をきっかけに、自分たちの備えに話が及びやすい。
- 誕生日や節目の年齢:将来のことを考えるムードになりやすい。
- 病院の帰り道:健康と将来への不安がリアルになる時間帯。
軽いトーンで話を振りつつ、必要なことをさりげなく聞き出せるようにしたい。
事前に知りたいポイントを整理しておくと安心だ。
親自身も自分や他人の病気や死をきっかけに不安を感じ、色々と調べ始めるケースも少なくない。
本人にとっても安心につながる声かけ
「信託」や「エンディングノート」も選択肢
財産の把握は相続手続きのためだけではない。
把握した財産を、必要なときに適切に活用できる状態にしておかなければ、意味をなさない。
たとえば、まとまった資金が定期預金のままになっていたら…?
もしその状態で本人が認知症を発症した場合、その預金を引き出すことが困難になる。
良質な介護サービスを受けさせたいと思っても、必要な資金をすぐに使えないという事態が生じるのだ。
- 任意後見契約や家族信託契約を提案する
判断能力があるうちに信頼できる人に財産の管理・処分を託せる仕組みであり、万一の備えとなる。
本人が「子供に経済的な負担をかけたくない」と思っているのであれば、検討の余地がある。 - エンディングノートを作っておくよう促す
こちらは法的効力はないが、本人の希望や考えを柔らかく伝えることができる。
家族にとっても本人の老後生活を支える際や、相続手続きの際に大きな助けとなる。
これらが整っていると、本人の希望に沿ったサポートを迷わず行えるだろう。
また、「自分で決めておける」ということが本人の安心にもつながる。
おわりに:聞くこと=備えること、安心をつくる第一歩
親の財産を把握することは、「相続の準備」というより、
「これからも家族でうまくやっていくための備え」だと言えるかもしれません。
聞きにくいことをどう切り出すか、聞いたあとどう整理するか。
その過程自体が、家族の関係を見直すきっかけにもなります。
気まずさや不安もあるかもしれませんが、備えること=思いやり。
ほんの少しの勇気が、親にも自分にも安心をもたらす第一歩になります。